予備校講師の 野生生物を巡る旅

79 野生生物72

汐津美文 著
B6判・並製本・160頁
定価(本体1,800円+税)
ISBN978-4-905930-87-7
発行 2016年7月27日

著者紹介

1982年 九州大学大学院理学研究科博士課程修了。理学博士。
大学院在学中は昆虫の個体群生態学,行動生態学を研究。
現在 学校法人河合塾開発研究職,生物科講師。高校教科書分析,テキストや模試問題の作成,映像授業などに関わる。  
 趣味は秘境旅行,スキューバダイビング。野生動物に出会う旅にハマっている。

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予期せぬ出会いの感動
生物はこんなに面白い

河合塾という予備校で生物を教えています。生物という科目は講師が少ないこともあって,授業だけではなく,テキストの作成や模擬試験の問題づくり,高校教科書の分析や大学入試問題の解答作成など,さまざまなことをやっています。これらの仕事が重なり,ほとんど休日のない状態が続いたことがありました。そのあと10日ほどの休みをいただき海外旅行をすることにしました。行先はケニアとタンザニア。夢にまで見たアフリカの野生動物に会って,心身ともにリフレッシュしようと考えたのです。20年も前のことでした。
地平線まで続く草原にはヌーやシマウマ,トムソンガゼルなどの群れが見えます。アカシアの林の向こうにはキリンが上半身をのぞかせています。ライオンやチーターを探してのサファリドライブは否が応にも期待感が高まります。強い日差し,サバンナを渡る風の心地よさ,草の匂い。このときのことは今でもはっきりと覚えています。
帰国後,生徒を集めて写真を見せながら報告会をしました。アンケート用紙に動物のイラストを描いてくれた生徒,「先生楽しそう,授業と全然顔つきが違う」という感想を書いてくれた生徒もいました。「授業の時間内で入試生物の全てを教えるのは大変なんだよ」と言い訳の一つもしたいのですが,こんなにたくさんの生徒が,授業ではほとんど話すことができない野生動物の生活や社会構造に興味をもっているとは。これはちょっと驚きでした。それから,年に1~2回,半ば強引に1週間から10日の休暇を取り,野生動物に会いに行く旅が始まりました。
「進化の箱舟」と呼ばれるマダガスカル島は,日本の1.6倍の面積をもつ世界で4番目に大きな島です。東部に広がる熱帯雨林,バオバブが見られる西部の乾燥地帯,南部には世界でもほとんど類のない乾性有棘林が発達するなど多様な生態系を有しています。森林の多くは人々の活動によって失われましたが,それでもキツネザルやカメレオンなどの固有種の数は圧倒的です。マダガスカルでは期待に違わず多くの珍しい生物との出会いがありました。
インドを訪れた第一の目的はベンガルトラに会うことでした。インド中央部に位置するバンダウガル国立公園はちょうど乾季にあたり,雨緑樹林では日本の秋を思わせる落葉が始まっていました。森林の中で動物を見つけるのは,草原で動物を見るのとは比べものにならないくらい困難なことです。なんとかベンガルトラに会うことはできましたが,トラの生息数は人口増加のために激減しているようです。ヒトとトラとの共存をどう考えていくのか,重い課題を与えられた旅になりました。
ボルネオ島には世界一の樹高を誇るフタバガキの熱帯雨林が広がっています。日本からの距離が近いので,日本発の多くのツアーが組まれており,簡単に訪れることができます。本来,森林の動物は観察が非常に難しいのですが,ここでもアブラヤシのプランテーションのためにわずかの川岸林を残して森林伐採が進んでおり,野生動物は川岸林に逃げ込んで密度が高くなっています。現地で開催されているエコツアーに参加すると,ボルネオの固有種であるオランウータンやテングザルに比較的簡単に出会うことができました。世界最大の花であるラフレシアを見ることができたのも幸運なことでした。
スキューバダイビングのCカード(認定証)を取得してフィリピンやパラオの海に潜りました。海の中にも多種多様な動物が生息しています。ウミヘビやカレイやミノカサゴなどさまざまな動物に「擬態する」と言われているミミックオクトパス,生きた化石オウムガイ,雄から雌に性転換するクマノミ類などなど。その生活は陸上の生物にもまして驚異に満ちていました。
地球上には多くの生物が共存し多様な生活を営んでいます。生物の面白さはその多様性にあると言っても過言ではありません。生物の長い歴史のなかで,生物は同種あるいは他種との相互作用や取り巻く環境の影響により進化してきました。生物の多様性はそれぞれの種が進化してきた歴史に裏付けられています。
例えば,ライオンでは「子殺し」という行動が普遍的に見られます。ライオンの社会構造の研究によって,この一見不利益となる「子殺し」の意味を説明できるようになりました。体の大きなサバンナゾウは捕食者に対しては無敵です。しかし,体重を支えるために脚の骨はかなり無理を強いられています。その証拠に大型の肉食獣がいない小島では子馬ほどの大きさになっていたことが分かっています。皆さんは,「動物の性は性染色体によって決まる」と思っていませんか。ところがウミガメは胚発生時の温度によって雄になるか雌になるかが決まります。このまま地球温暖化が続くとしたら,ウミガメの性は一方に偏ってしまわないのでしょうか。
本書では,このような話題を取り上げ,私自身の撮った写真を使って「生物の多様な生き様」を紹介したいと思います。多くの皆さんが,「こんな変わった生物もいるのか」,「この動物の変な行動にはこんな意味があるのか」と生物に興味をもたれ,「生物はこんなに面白い」と感じていただければ,とてもうれしく思います。(「はじめに」より)

目 次
第1章 マダガスカル
1  キツネザルは海を渡ったか
2  マダガスカルサンコウチョウ:二型の体色をもつ鳥
3  カメレオンの楽園
4  バオバブ:大陸移動の証人
5  乾性有棘林の奇妙な植物
コラム ① エピオルニスの巨大な卵

第2章 東アフリカ
6  ライオン:ネコ科の異端児
7  シロサイとクロサイ
8  サバンナゾウ:大きいことはいいことか
9  ダチョウ:卵にまつわる話
10  レイヨウ類の適応放散
11  アフリカスイギュウ:「ビッグファイブ」からの陥落
12  チーター:か弱きハンター
13  フラミンゴの赤いミルク
14  カバ:クジラとの意外な関係
15  ハイラックス:和名はイワダヌキ
16  ハイエナ:「こそ泥」と呼ばれて
17  ハゲワシ:腐肉食のスペシャリスト
18  キリンの血圧
19  シマウマの縞
20  マングースの変身
21  アリアカシア:アリと共生する植物
コラム ② 大地溝帯(グレート・リフト・バレー)
コラム ③ オルドヴァイ峡谷

第3章 インド
22  ベンガルトラ:絶滅に瀕する森の王者
23  インドクジャク:雄が美しい理由
24  ハヌマンラングール:「子殺し」の発見

第4章 ボルネオ
25  オランウータン:人類の系譜を考える
26  テングザル:反芻行動をするサル
27  ラフレシア:世界最大の花
28  ウミガメの涙
29  ヘビ:細くて長い体の秘密
コラム ④ 熱帯雨林のキャノーピー・ウォークウェイ

第5章 海の生きものたち
30  クマノミ:性転換する魚
31  ウミウシ:生きている海の宝石
32  ミミックオクトパス:「擬態」するタコ
33  オウムガイ:殻をもつタコの仲間
34  リーフィー・シードラゴン:竜と呼ばれる魚
コラム ⑤ 世界遺産トゥバタハ岩礁海中公園

終章 遺伝子をもとに生物進化を考える
35  ドラゴンズ・ベビー:洞窟に棲む両生類

参考文献
おわりに
事項索引
生物名索引

 

 

 

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