交尾行動の新しい理解

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交尾行動の新しい理解-理論と実証-

粕谷英一・工藤慎一 共編
A5判・並製本・200頁
定価(本体3,000円+税)
ISBN978-4-905930-69-3
発行 2016年3月15日

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過去の教科書であなたの学んだこと,それは本当に正しいのですか?

この30年余りの間に,動物行動学や生態学は,確かに,交尾行動について多くを明らかにしてきた。「メスとオスの基本的な差」,「オス間の交尾をめぐる競争」,「メスによる交尾相手の選り好み」という3つの線に沿って,膨大な数の研究が行われてきた。それらの成果は,教科書的な本にも数多く取り上げられている。しかし,多くのものが見えてくるにしたがい,逆に「まだ明らかにされていない部分の大きさが際立ってきた」と私たちは感じている。一部には「これら3つの線で得られたこれまでの成果は,教科書に取り上げられるほど確固たるもので,交尾行動についてはほぼ明らかになっている」という感覚も漂っているようだが,それは研究の前線で感じるものとは違っていると感じている。そして,そういった成果が得られた後も,紆余曲折しながら交尾行動や雌雄関係の新たな描像が育っているとも感じている。生物学を専攻する,特にこの分野の研究を志す若い人たちに,「このことを伝えたい」と思って私たちは本書を編んだ。

交尾行動の研究は,理論と実証の相互作用で進んできた。そして,交尾行動を題材にして多くの理論モデルが作られてきた。だが,個々の面に焦点を当てたモデルが多数作られた結果,統一的なイメージを持ちにくくなっているのではないだろうか。林(第2章)は,これらの理論モデル間の関係を明快に整理している。理論の統一的な理解を進めるうえで,本章は必読と言えるだろう。また,粕谷・工藤(第1章)は,交尾行動の基礎にあるメスとオスの違いとそれが生じる過程について,これまでの理論の不十分な点を解説している。生態学や動物行動学の日本語での専門書でも,まだ十分に説明されていない内容であろう。この章では,近親交配はいつでも不利だというわけではなく,有利・不利はどのように決まるかも説明している。

理論や仮説はすっきり美しくても,現実はしばしば紆余曲折している。ある理論の予測によく合っている例として取り上げられているようなケースでも,詳細に見ていくと,よく合っているのは見かけにすぎないと思えることは珍しくない。狩野(第3章)と原野(第4章)は,交尾行動研究の代表的なモデル生物を例に,研究の現場で検証が実際どう進んでいくかを活写しながら,現在の理解の到達点を見せてくれる。

交尾行動の不思議に心引かれる若い人たちの「わくわく感」に,本書がいくらかでも応えるものになっていれば幸いである。(「はじめに」より)

目 次

1 交尾行動の行動生態学:最近の新展開(粕谷英一・工藤慎一)

はじめに

1-1 交尾行動とメスとオスの差

1-1-1 メスとオスと性的役割

1-1-2 フィッシャー条件

1-1-3 性差と性的役割の理論の歴史

1-1-4 性 比

1-1-5 フィッシャー条件と性的役割の分化

1-2 近親交配を避ける性質

1-3 今後の課題

1-3-1 性的役割:親の投資と配偶への投資

1-3-2 血縁個体との交尾および交尾回避

1-3-3 生態的要因と交尾行動

Box 1-1 メスが何頭のオスと交尾するかがオスによる子の保護

に与える影響:Queller(1997)のモデル

Box 1-2 ベイトマン勾配

2 性淘汰理論を整理する(林  岳彦)

はじめに

2-1 性淘汰理論の概観

2-1-1 性淘汰とは何か:「繁殖において有利」というアイデア

2-1-2 メスの配偶者選好性の進化理論の分類:6つの理論

2-2 各性淘汰理論の内容

2-2-1 知覚バイアス説:知覚的に好き

2-2-2 繁殖干渉回避説:他種は嫌いです

2-2-3 ランナウェイ説:「魅力」の自己増強バブル

2-2-4 優良遺伝子説:ハンディキャップという形の「宣伝」

2-2-5 性的対立説:「抵抗」としての選り好み

2-2-6 直接利益説:「今・ここ」での利益をもたらす選り好み

2-3 それぞれの性淘汰理論の違いを整理する

2-3-1 種内での雌雄間相互作用に起因するか

2-3-2 直接淘汰か間接淘汰か

2-3-3 交尾自体が直接的なコストや利益を伴うか

2-3-4 交尾相手の「質」と「量」のどちらに依存するか

2-3-5 モデルから予測される進化動態の違い

2-4 検討:どの性淘汰理論が最も「正しい」のか

2-4-1 それぞれの理論は排他的ではない:「群像劇」という視点

2-4-2 主役は誰なのか:有/無の議論から定量的議論へ

2-5 結びに

補遺A 量的遺伝モデルによる各性淘汰理論の解説

A-1 量的遺伝モデルについての一般的な解説

A-2 量的遺伝モデルの枠組みに基づく性淘汰理論の解説

補遺B 最適な交尾回数をめぐる性的対立の理論モデル:

その基本的な枠組みと予測される進化動態

B-1 最適な交尾回数をめぐる性的対立の理論モデルの概要

B-2 性的対立の理論モデルから示唆される進化的帰結

Box 2-1 「メスの選好性」の用法

Box 2-2 つがい外交尾は優良遺伝子説で説明できるか?

Box 2-3 Still mysterious:クジャクの羽はなぜ美しい?

3 グッピーの配偶行動と雌雄の駆け引き (狩野賢司)

はじめに

3-1 グッピーの配偶行動:配偶者選択と,メスとオスの対立

3-2 大きなオスに対するメスの好みと,オスの騙し

3-3 オスのオレンジスポットに対するメスの選り好み

3-3-1 オスのオレンジスポットを基にしたメスの選択とその利益

3-3-2 オレンジスポットの大きさ

3-3-3 オレンジスポットの鮮やかさ

3-4 オスのオレンジスポットと体サイズの相対的重要性

3-5 オレンジスポットとオスの騙し

3-6 交尾の際のメスの選択

3-7 交尾後のメスの精子選択と産子調節

3-7-1 メスの受精調節と精子競争

3-7-2 オス親の魅力に応じた子の性比調節

3-8 今後の展望

4 交尾をめぐるメスの利害とオスの利害:マメゾウムシの事例を中心に (原野智広)

はじめに

4-1 マメゾウムシの交尾

4-1-1 メスが傷を負うマメゾウムシの交尾

4-1-2 マメゾウムシ

4-2 メスに危害を及ぼすオスの形質の進化

4-2-1 オスはなぜメスを傷つけるのか

4-2-2 交尾器のトゲがオスにもたらす利益

4-2-3 交尾器と交尾継続時間

4-3 オスとメスの拮抗的共進化

4-3-1 性的対立が引き起こす共進化の道筋

4-3-2 種間比較による検証

4-3-3 実験進化による検証

4-3-4 メスに有害な精液

4-4 メスの適応度に対する多回交尾の影響

4-4-1 メスはなぜ多回交尾を行うのか

4-4-2 メスの多回交尾による産卵数の増加

4-4-3 メスの適応度に対する多回交尾の影響をいかに評価するか

4-5 子の適応度に対するメスの多回交尾の影響

4-5-1 メスの多回交尾の間接的利益

4-5-2 交尾後性淘汰と子の適応度

4-5-3 近親交配の回避

4-6 性的対立から生じる非適応的なメスの多回交尾

4-6-1 雌雄間の遺伝相関

4-6-2 交尾をめぐる性的対立とメスの交尾行動の進化

4-7 おわりに

Box 4-1 遺伝子座間性的対立と遺伝子座内性的対立

Box 4-2 遺伝相関

引用文献

索 引

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