水から出た魚たち

水から出た魚たち(HP)

水から出た魚たち-ムツゴロウとトビハゼの挑戦-

田北 徹・石松 惇 共著
A5判・上製本・176頁
定価(本体1,800円+税)
ISBN978-4-905930-17-4
発行 2015年7月10日

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ムツゴロウとトビハゼの謎を解く

 ムツゴロウという変わった名の魚がいることは,広く知られています。しかし,日本ではその分布が九州の有明海と八代海の一部に限られていること,またムツゴロウが棲んでいる泥干潟は泥がとても軟らかくて,足を踏み入れにくいことなどの理由から,その生態はあまり知られていないように思います。私たちは長年にわたって日本とアジア・オセアニアのいくつかの国で,ムツゴロウとその仲間たちの研究を行ってきました。このグループの魚たちは,魚類なのに水中と陸上をまたいで生活するという特異な性質をもっていますので,昔からさまざまな研究が行われてきました。しかし,なにしろ人間が近づきにくい環境に棲んでいるものですから,依然として多くの謎が残っています。私たちの研究で複数の新種が見つかり,泥干潟という厳しい環境で生きるために彼らが発達させた行動や生理の解明において,いくつかの成果を上げることができました。なかでも,ムツゴロウやトビハゼたちが干潟の巣孔の中に空気をためて,その空気に含まれる酸素を使って子育てをしていることを発見できたのは,私たちにとっても大きな驚きでした。
 ここに紹介する研究成果は,私たちの興味と努力だけによるものではありません。私たちとともに泥干潟を這い回り,文字どおり泥まみれになって研究を支え,さらに独自に研究を進めた学生諸君の努力と多くの協力者の支援のたまものです。また,研究の費用面で私たちの研究遂行に血税の使用を許してくださった国民の皆さんへの感謝を決して忘れません。本書は,生きものとその環境に興味をもつ多くの方々に理解していただけることを目標に作りました。この世の中にムツゴロウというこんなに面白く,かつユニークな魚とその仲間がいることを一人でも多くの方に知っていただけたら本望です。また,ムツゴロウたちが棲む干潟が急速に破壊されてなくなっている現実を,多くの人々に知っていただき,その保全に少しでも役に立てたら,こんなに嬉しいことはありません。
 ムツゴロウとその仲間たちは,どの種も美しくて可愛く,つぶらな瞳はとてもチャーミングです。アメリカから友人夫妻の訪問を受けたとき,夫人に「ムツゴロウ(英語でマッドスキッパーmudskipper)という魚を知っているか?」と尋ねたら,「あのアグリーな(みにくい)魚のことなの?」と答えました。そこで,彼女を有明海に連れて行ってムツゴロウを見せたところ,彼女は前言を謝り,「キュート(可愛い)」と言い直しました。本書を読んだ皆さんが,彼らがキュートなだけでなく,干潟の生態系を維持する重要な生きものであること,そしてムツゴロウをはじめとして,多くの生きものたちが命をつなぐ,干潟の環境を健全な姿で保全することの大切さをお分かりいただけたら幸いです。   (田北 徹・石松 惇)

目 次
1 ムツゴロウって何者?
  1-1 ムツゴロウ類の分類学入門
   (1)各魚種の呼び名
   (2)わが国には5種のムツゴロウの仲間たち
1-2 マッドスキッパーと呼ばれる魚たち
   (1)ムツゴロウ属(Boleophthalmus)の魚たち
   (2)トビハゼ属(Periophthalmus)の魚たち
   (3)ペリオフタルモドン属(Periophthalmodon)の魚たち
   (4)トカゲハゼ属(Scartelaos)の魚たち
  1-3 その他の近縁種たち
   (1)アポクリプテス属(Apocryptes)
   (2)タビラクチ属(Apocryptodon)
   (3)オグジュデルセス属(Oxuderces)
   (4)パラポクリプテス属(Parapocryptes)
   (5)シューダポクリプテス属(Pseudapocryptes)
   (6)ザッパ属(Zappa)
コラム 東京湾のトビハゼ(東京都葛西臨海水族園 田辺信吾氏寄稿)

2 ムツゴロウたちが棲む環境
  2-1 干潟ってどんな所?
  2-2 干潟の生きものを支える植物
  2-3 有明海と八代海

3 ムツゴロウたちの生活
  3-1 海と陸のはざまに棲む
  3-2 ムツゴロウたちの食生活
   (1)ムツゴロウはベジタリアン
   (2)トビハゼやペリオフタルモドンは肉食系
  3-3 ムツゴロウの一日
  3-4 ムツゴロウの行動圏と縄張り
  3-5 ムツゴロウの大移動
  3-6 縄張りをもたないトビハゼ
  3-7 トカゲハゼの縄張り
  3-8 マッドスキッパーを襲う動物たち
  コラム なぜムツゴロウたちはごろんとするのか?

4 ムツゴロウたちの繁殖と成長
  4-1 雌雄の見分け方
  4-2 繁殖の最初は産卵室造りから
   (1)ムツゴロウの横孔型産卵室
   (2)トビハゼのJ型産卵室
   (3)シュロセリのドーム型産卵室
  4-3 産卵室ができたら求愛ジャンプ!
  4-4 ジャンプの次は求愛ダンス
   (1)トビハゼ属の求愛行動
   (2)セプテンラディアトゥスの求愛行動
  4-5 いよいよ巣孔の中へ
  4-6 泥の中での産卵
  4-7 泥の中での子育て
  4-8 子ども時代の生き残り競争
  4-9 ムツゴロウの成長
  4-10 ムツゴロウとトビハゼの冬眠

5 マッドスキッパーから進化を考える
  5-1 最初に上陸した魚が見た地上
  5-2 上陸する魚たち
  5-3 マッドスキッパーと太古に上陸した動物を比べると
   (1)体の大きさ
   (2)骨 格
   (3)歩き方
   (4)餌とその食べ方
   (5)呼吸器官
   (6)心臓と血管系
  5-4 なぜ陸上を目指すのか?
  5-5 マッドスキッパーは水辺から離れられる?
   (1)水分の保持
   (2)繁殖の方法
   (3)タンパク質代謝産物の排出

6 ムツゴロウ類の漁業・養殖・料理
  6-1 ムツゴロウ類の漁業
   (1)有明海でのムツゴロウ漁法
       (佐賀県農林水産商工本部 古賀秀昭氏寄稿)
   (2)中国・台湾・韓国でのムツゴロウ漁
   (3)ベトナムでのホコハゼ漁
   (4)マレーシアでのシュロセリ漁
  6-2 ムツゴロウ類の養殖
   (1)日本でのムツゴロウの種苗生産
       (佐賀県農林水産商工本部 古賀秀昭氏寄稿)
   (2)中国南部でのムツゴロウ養殖
       (中国厦门大学 洪万树(Hong Wanshu)先生寄稿)
   (3)台湾でのムツゴロウ養殖
       (国立台南大学 黄銘志(Huang Ming-Chih)先生寄稿)
   (4)ベトナムでのホコハゼ養殖
       (Pham Van Khanh編『ホコハゼ養殖技術』より)
  6-3 ムツゴロウ類の料理

本書での呼び名と学名の対照表
参考文献
あとがき
索 引

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