理論生物学の基礎

関村利朗(中部大学教授)・山村則男(総合地球環境学研究所教授)共編
A5判・上製本・400頁
定価(本体5,200円+税)
ISBN 978−4−905930−24−2
2012年5月25日

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数理モデルの構築法と解析法がよく分かる
 近年,生物の諸現象を数理的あるいは理論的に取り扱う学問分野が急速な発展をみせており,理論生物学という新しい分野を形成してきている.しかし,この分野は,取り扱う問題の範囲が生態学,発生学,進化生物学,遺伝学,医学など極めて幅広い分野に及ぶこともあり,その考え方や解析法を基礎から丁寧に一冊の本にまとめたものが,和書はもとより洋書でもないのが現状である.本書の目的は,これまで長年にわたって多くの先人たちによって蓄積されてきた理論生物学の考え方,数理モデルの構築法とその解析法を幅広くまとめて,基礎から分かりやすく解説することである.したがって,この本はこの分野の最新の研究結果を集めた論文集ではないことを注意しておきたい.主な読者である若い学生諸君や専門を異にする研究者の方々は,まず本書によって理論生物学の基礎を幅広く学び,そのうえで個別の研究へとさらに進んでもらいたいと考えている.
 本書の執筆者でもある4名は,さまざまな方面からの要請もあり,『理論生物学入門』( (株)現代図書, 2007) を出版した.このたび,『理論生物学の基礎』を出版するにあたり,内容のいっそうの充実をはかるために,新たに専門の異なる気鋭の研究者2名の方に加わっていただき,計6名の執筆者による理論生物学の幅広い分野をカバーするこの一冊が完成した次第である.

 1, 2章は主に生態学に関する章である.1章は「生物の個体数変動論」である.まず単一の生物種からなる集団の単純成長モデルである指数成長モデルに始まり,さらに密度効果を入れたロジスティック成長モデルへと展開する.次に相互作用する2種以上の生物種の個体数変動を記述する数理モデルとして,ロトカ・ボルテラモデルが取り上げられる.2種系としては,捕食者-被食者系,競争系,共生系が議論される.3種系では3種食物連鎖系,2被食者-1捕食者系,3種巡回系が解説される.最後に,一般的な多種ロトカ・ボルテラモデル系の基本的な性質が考察される.
 2章は「空間構造をもつ集団の確率モデル」である.生物の個体数の時間的変動だけでなく,空間分布を併せて考えるのがこの章の特徴である.離散モデルの代表格である格子モデルをベースにして,格子空間上のロジスティック成長モデルやゲーム理論,また,応用上重要なメタ個体群モデルなどが取り上げられている.さらに,これらのモデルの保全生態学への応用も取り上げられていて大変興味深い.

 3, 4章は広い意味で発生学に関する章である.3章は「生化学反応論」である.質量作用の法則など化学反応論の基礎となる諸概念の解説と,自己触媒反応などいくつかの応用例を通してその数理的な解析法が紹介される.また,生体内反応として応用上重要な,活性化-抑制反応,酵素反応,そして有名なベルーゾフ・ザボチンスキー (BZ) 反応などが解説される.
 4章は「生物の形態とパターン形成」である.この章は大きく分けて3つの部分からなっている.まず,植物の葉序パターンとフィボナッチ分数の関係など,生物の形態と数学との深い関わりについての解説である.また,生物の形態進化の考え方も紹介されている.次に位置情報説,チューリングパターンなど多細胞生物の細胞分化パターン形成の考え方と数理モデル,そしてその数理的な解析法が解説される.この章の最後は,生物個体群に見られる空間的パターン形成モデルの紹介と解説である.

 5, 6章は進化生物学と集団遺伝学に関する章である.5章は生物の「適応戦略の数理」である.1個体が次世代に残す子どもの数,すなわち,適応度を最大にする生存戦略が議論される.このような最適問題は工学でよく現れる問題であり,そこで使われる手法が適応戦略の数理として広く応用されている.この章では,最適採餌理論,包括適応度を考慮した利他行動や社会性の進化,性比理論,動的最適問題などが解説される.
 6章は「遺伝の数理」である.この章ではハーディ・ワインベルグの法則をはじめ,遺伝子の集団中での世代を経ての変化を記述する集団遺伝学のモデルが解説される.また,生物の遺伝形質に多数の遺伝子が関与していて連続的形質とみなせる場合 (体サイズ,卵数など) に適用可能な量的遺伝モデルも解説される.

 7章は「医学領域の数理」である.この章では医学領域のさまざまな問題が取り上げられる.集団中の感染症の流行,生体内の免疫システム,発がん過程の数理,また古典的にも有名な神経細胞の数理モデルなどが解説される.医学は生物学に基礎をおいているため,生物学の数理モデルが当然関係してくる.また医学領域の研究は社会的な重要性もあり,数理的研究も盛んに行われていることが紹介される.

 8章は「バイオインフォマティクス」である.現在膨大な量の生物遺伝情報が蓄積されており,それらを利用して生物学や医学上の諸問題を解決する手段の一つとしてバイオインフォマティクスという学問分野が創設された.ここでは,その基礎的な考え方から実用的な遺伝情報データベースの利用法,解析のアルゴリズム,また,医療分野への応用としてヒトの食道がんへの応用例などが紹介される.

 以上,内容をざっと概観するだけでもわかるように,現時点でこれ以上望めないほどの内容をもつ“理論生物学の基礎”の入門的教科書あるいは参考書ができたものと確信している.さらに,巻末には「プログラム集」を付けて,読者が自身で理論生物学の学習をより身近に,またリアルに体験できるように心がけた.もし読者がパソコンをもっているか使用できる環境にあれば,「プログラム集」に収めているソースプログラムを利用して本文中の作図や演習問題の数値解を得ることができる.ただし,ソースプログラムはMathematica,C言語,R言語などのソフトウェアを使用して書かれているため,読者はこの本とは別にそれらのプログラムが動作するパソコン環境を整える必要がある.また,同じく巻末に付録,各章の演習問題解答,参考文献を載せるなど,教科書としてまとまりのある書となっている.

 前述のように,理論生物学はまさに発展中の学問である.生物現象が個別の視点からだけでなく統合化された理論として理解されるようになるなど,この学問が真に完成されるまでには今しばらく時間がかかるであろう.現時点において,本書が日本の若い学生諸君,また,専門を異にする研究者の方々への理論生物学の基礎を学ぶ教科書あるいは参考書としての役割を果たすことができれば,編者としてこのうえない喜びである.

目次

1章 生物の個体数変動論 (竹内康博)
 1-1 指数成長
 1-2 ロジスティック成長
 1-3 ロトカ・ボルテラモデル(2種系)
 1-4 ロトカ・ボルテラモデル(3種系)
 1-5 ロトカ・ボルテラモデル(n種系)
 演習問題

2章 空間構造をもつ集団の確率モデル (佐藤一憲)
 2-1 はじめに
 2-2 基本的な確率モデル
 2-3 格子空間上のロジスティックモデル
 2-4 コンタクトプロセスに関連するモデル
 2-5 格子空間上のゲーム理論 
 2-6 空間点過程
 2-7 メタ個体群モデル
 2-8 保全生態学への応用
 演習問題

3章 生化学反応論 (関村利朗)
 3-1 反応速度論の基礎
 3-2 活性化-抑制反応
 3-3 酵素反応と酵素反応の阻害
 3-4 ベルーゾフ・ザボチンスキー(BZ)反応
 演習問題

4章 生物の形態とパターン形成 (関村利朗)
 4-1 生物の形態の数量化
 4-2 多細胞生物の細胞分化パターン形成
 4-3 生物個体群におけるパターン形成
 演習問題

5章 適応戦略の数理 (山村則男)
 5-1 単純な最適問題
 5-2 包括適応度
 5-3 ゲームモデル
 5-4 動的最適問題
 演習問題

6章 遺伝の数理 (山村則男)
 6-1 集団遺伝学の基本的概念
 6-2 遺伝子座モデル
 6-3 量的遺伝モデル
 演習問題

7章 医学領域の数理 (梯 正之)
 7-1 感染症流行の数理モデル
 7-2 免疫システムの数理モデル
 7-3 発がん過程の数理モデル
 7-4 神経細胞の数理モデル
 演習問題

8章 バイオインフォマティクス (高橋広夫)
 8-1 生物のもつ遺伝子から塩基配列・タンパク質まで
 8-2 バイオインフォマティクス概観
 8-3 ウェブサイトに公開された生物情報データベース
 8-4 配列解析
 8-5 発現解析
 8-6 医療分野への応用
 演習問題

付 録
  1 微分方程式系の安定性解析と最小2乗法によるデータ解析
  2 2変数反応方程式と定常解近傍での解の振る舞い
  3 移流項を含む反応拡散方程式導出と拡散方程式の解法
演習問題解答
プログラム集
  1 C言語プログラム(1章,3章,4章)
  2 Mathematicaプログラム(2章)
  3 R言語プログラム(8章)
参考文献
事項索引

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