島の鳥類学―南西諸島の鳥をめぐる自然史―

水田 拓(環境省奄美野生生物保護センター),
高木昌興(北海道大学大学院理学研究院教授)共編
A5判・上製本・464頁
定価(本体4,800円+税)
ISBN978-4-905930-85-3
発行 2018年9月21日

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生物多様性保全の重要性を解く

 本書は,九州よりも南西に位置する数多くの島々,琉球列島を中心とした南西諸島において,28人の執筆者が鳥を材料にして行った研究を紹介するものである。編者は本書を単なる研究紹介にとどめるつもりはない。野鳥愛好家には野外において科学的に野鳥観察を楽しむための知識,初学者には島における鳥の研究を発展させるためのヒント,研究者には日本の鳥学がおかれている現状を理解するきっかけをそれぞれ提供したいと考えている。その一助として,各章の冒頭で,各執筆者が南西諸島における研究の楽しさや辛さ,今後の研究の方向性などを自由に記述している。これらは研究の実体験に基づいた執筆者から読者への本音のメッセージである。
 本書は,日本における鳥学の裾野の拡大と底上げも見据えている。ここでは本書の各章のエッセンスを簡単に紹介するうえで,2つのことをあえて記しておきたい。1つは,編者が考える日本の鳥学の短所と長所,もう1つは,日本列島の植物相と動物相の成り立ちについてである。読者はこの2つのことを意識しつつ,読み進めていただきたいと思う。 
 本書が扱う琉球列島,大東諸島,尖閣諸島と同様に,伊豆諸島や小笠原諸島は非常に魅力的な島々であり,上述のように北海道・本州・四国・九州も研究素材が詰まった大きい島である。南北に長く,高い山をもち,多くの島からなる地理と地史的長所がある。そこに個体レベルでの長期研究,および,より詳細な遺伝子レベルでの個体群構造の解明を重ねることが,世界をリードする研究に導くだろう。日本列島の鳥類相は,アゾレス諸島,カナリア諸島,マデイラ諸島における鳥の種分化や群集に関する研究 (Rodrigues et al. 2013; Rodrigues et al. 2016; Valente et al. 2017),トリスタンダクーニャ諸島のNesospiza属の生態的種分化 (Ryan et al. 2007),ハワイ諸島やガラパゴス諸島における総合的な進化学研究に負けない素材があるはずだ。もちろん長期研究だけが崇高な研究というわけではない。各章を読んでヒントを得てほしい。日本の鳥学の長所である個々の研究を見ることができる。そのうえに日本の鳥学の未来が開かれるだろう。(「まえがき」より) 

目 次

まえがき

第I部 現在と過去の南西諸島の鳥類相
     
1 南西諸島の鳥類の系統と分類 (齋藤武馬・西海 功)
(コラム)分類学はバードウォッチングの「基本のき」!?
南西諸島の生物地理
南西諸島の鳥類
南西諸島における鳥類の分子系統地理と分類
おわりに

2 琉球列島研究の先駆者小川三紀・黒田長禮と幻の絶滅鳥ミヤコショウビン (平岡 考)
(コラム)標本に改めて注目を
はじめに
小川三紀と黒田長禮の鳥類相研究
幻の絶滅鳥ミヤコショウビン
おわりに

3 鳴き声から探る南西諸島の生物地理―リュウキュウコノハズク― (高木昌興)
(コラム)鳥の生物地理学ことはじめ
なぜ鳴き声なのか
なぜフクロウ類なのか
なぜ南西諸島のリュウキュウコノハズクなのか
広告声の視認と計測
時間周波数解析による広告声の定量的評価
定性的評価から見える多様な声紋
南西諸島の地理的特徴が進化の動因

4 アカヒゲがつなぐ琉球の島々―アカヒゲの渡りと系統地理― (関 伸一)
(コラム)アカヒゲ観察のための島旅ガイド
はじめに
狭くて広いアカヒゲの分布
似て非なる島ごとのアカヒゲ
転がり込んできたDNA解析のチャンス
アカヒゲには遺伝的にも地域性がある
DNA情報が語る歴史の確からしさ
DNA情報の解析でアカヒゲの歴史を読み解く
渡りのための翼が集団をつなぐ
翼の形が語るアカヒゲの亜種の氏素姓
島々をつなぐアカヒゲの渡り
おわりに

5 伊豆諸島・鳥島のフィールド調査と北海道・礼文島の遺跡資料の分析から尖閣諸島のアホウドリを探る (江田真毅)
(コラム)尖閣諸島に行けた幸運な貴方へのお願い
はじめに
尖閣諸島のアホウドリの歴史
DNA解析から探る現在のアホウドリの遺伝的多様性と集団構造の歴史
北海道・礼文島の遺跡資料から探る約1,000年前のアホウドリの集団構造
伊豆諸島・鳥島のフィールド調査から探る2つのアホウドリ集団の関係性
尖閣諸島のアホウドリを探る
おわりに

第II部 分布と生態の関係を読み解く
         
6 琉球列島における小型フクロウ類3種の分布特性 (伊藤はるか)
(コラム)とりあえずやってみる
琉球列島の夜の森
フクロウ類3種の分布状況
分布モデルの構築
リュウキュウコノハズクの生息適地
アオバズクの生息適地
オオコノハズクの生息適地
フクロウ類の微妙な関係
フクロウ類のその後
鳥類の分布のモデリングと環境保全
おわりに

7 繁殖のタイミングが鍵を握る?―やんばるの森で共存するコノハズクたちの生態― (外山雅大)
(コラム)コノハズクたちの研究,しませんか
やんばるのコノハズクたちとの出合い
コノハズクたちをどう調べるか
種間で異なる繁殖期・繁殖成功
コノハズクたちの餌資源の利用パターン
コノハズクたちの営巣場所選択
繁殖のタイミングが鍵を握る―コノハズクたちの繁殖成功―
おわりに

8 シジュウカラとヤマガラのさえずり―島によって異なる方言とその影響― (濱尾章二)
(コラム)見てみたい侵入と絶滅の過程
琉球列島のシジュウカラとヤマガラ
さえずりの録音と分析
さえずりの方言
さえずりの違いを生みだすもの
シジュウカラ,ヤマガラの方言と形質置換
種間関係の非対称性
同種のよその方言を理解できるか
プレイバック実験
既存の仮説
近縁種の存在と種の認知
島を変え,種を変えての実験
種認知のメカニズム
おわりに

9 太平洋に浮かぶ海洋島に移り棲んだモズ (松井 晋・高木昌興)
(コラム)辺縁個体群の形成は種分化の初期段階
はじめに
海を越える能力
繁殖に適した営巣環境
食物資源
気象条件
捕食者
種間競争
病原体と感染症
おわりに

10 広域分布する普通種クイナの生態―シロハラクイナを例に― (岩崎哲也)
(コラム)フィールドワークを終えてからが勝負
もっともよく見かける広域分布クイナとの遭遇
クイナ科とは
クイナ類の環境利用様式の研究例
西表島での調査生活
広域スケールでの出現環境選択性
微細スケールでの環境利用様式
おわりに

第III部 島に特徴的な生態と行動
        
11 父の知恵が子を守る!―営巣場所を学ぶ孤島のメジロ― (堀江明香)
(コラム)長期密着型フィールドワークの苦しみと醍醐味
極彩色の南の島―そのイメージはどこまで正しいか―
西表島と南大東島―2つの調査地―
ダイトウメジロを知る
調査三昧の日々
見えてきたダイトウメジロの面白さ
捕食に特化した研究の始まり
生き物の少ない島の利点―たった2種の捕食者―
クマネズミとモズ―どんな巣を襲う?―
年齢を重ねると繁殖成績はよくなるか
年齢を重ねると営巣場所選びは上手くなるのか
おわりに

12 リュウキュウアカショウビンの営巣場所選択―シロアリを利用した奇妙な子育て― (矢野晴隆)
(コラム)番組作りは研究の延長だ!
なぜアカショウビンなのか
いざ西表島へ!
リュウキュウアカショウビンと初対面
森で謎の塊を発見!
人工営巣木による営巣の誘致
シロアリとアカショウビンの不思議な関係
そして浮き上がってきた疑問
コロニー調査と繁殖の確認
アカショウビンによるコロニーの利用率
どんなコロニーが選ばれたのか
繁殖に成功しやすいコロニーとは?
なぜ使わない巣を掘るのか
おわりに

13 八重山のカツオドリの採餌・飛翔行動 (依田 憲・河野裕美)
(コラム)動物行動学する
萬緑の中や吾子の歯生え初むる (中村草田男)
バイオロギングによる鳥類行動学
カツオドリ成鳥の採餌行動
カツオドリ幼鳥の採餌・飛翔行動
幼鳥と成鳥の比較
おわりに

14 鳥の巣の知られざる共生系―南西諸島における鳥の巣の共生鱗翅類― (那須義次・村濱史郎・松室裕之)
(コラム)鳥と巣と昆虫の研究の勧め
はじめに
鳥の巣の調査方法
南西諸島の鳥の巣に共生する鱗翅類
鳥と巣内共生者の関係
巣内共生者の適応
おわりに

15 西表島におけるメジロを中心とした小鳥類の混群 (上田恵介)
(コラム)オヒルギの花は赤い!
混群に参加することの意味
熱帯の森の混群
亜熱帯域ではどうか
西表島のマングローブ林の混群
混群に参加する小鳥類
混群構成の季節変化
先導種と追従種
家族群の参加
マングローブ林と陸域林
採餌空間
西表島での混群形成のメカニズム

第IV部 島嶼性鳥類の保全の科学的アプローチ
       
16 南の島の希少なキツツキ―ノグチゲラの巣穴を巡る生物のつながり― (小高信彦)
(コラム)やんばる地域の森林生態系管理に向けて
はじめに
ノグチゲラの巣穴を利用する生物たち
ノグチゲラが巣穴を掘る樹木の特徴―心材腐朽―
ノグチゲラの営巣樹種と人の暮らし,樹木病虫害との関わり
ノグチゲラの営巣のための立枯れ木の創出
おわりに

17 撹乱を受けた仲ノ神島海鳥集団繁殖地―長期モニタリングと回復の過程― (河野裕美・水谷 晃)
(コラム)フィールドに立ち続けて
神宿り,海鳥舞う島
撹乱を受けた海鳥個体群
カツオドリの営巣数の増加
カツオドリの生と死
カツオドリの若鳥生残率の向上の可能性
セグロアジサシの成鳥数と雛 (幼鳥) 数の増加
体の小さなオオミズナギドリ個体群とその現状
海鳥の利用海域を知る
忍び寄る温暖化
おわりに

18 見えない鳥の数を数える―希少種オオトラツグミの個体数推定― (水田 拓)
(コラム)バードウォッチングと研究の垣根を飛び越える
数を数える困難さ
オオトラツグミ,幻の鳥
「幻の鳥」の歴史
絶滅の危機と回復
オオトラツグミのさえずり調査
さえずり調査の結果から個体数を推定する
オオトラツグミの分布に影響する要因と推定個体数
オオトラツグミは絶滅の危機を脱したか
おわりに

19 ドングリのなる森に羽ばたく珠玉の鳥 (石田 健・高 美喜男)
(コラム)奄美と私,ルリカケスの因果応報
奄美を代表する鳥
巣箱で営巣行動を研究する
二次林での巣箱研究とインターバルカメラの応用
わかってきたルリカケスの繁殖生態
卵や巣内雛の成長と世話
消える卵の不思議
ルリカケスの捕食者
ドングリとルリカケス
巣箱の観察による副産物
巣箱による域内保全と域外保全
ルリカケスの数と分布
ルリカケスの過去
ルリカケスの現在と未来

20 アマミヤマシギ―少しずつわかり始めた鈍感な固有種の形態と生態― (鳥飼久裕)
(コラム)バンディングの意義と楽しみ
はじめに
アマミヤマシギという鳥
アマミヤマシギは夜行性か
あるアマミヤマシギの通勤行動
アマミヤマシギの繁殖について
冬のアマミヤマシギはどこにいるのか
アマミヤマシギの保護のために
おわりに

21 ヤンバルクイナ―飛べない鳥の宿命― (尾崎清明)
(コラム)ハブの脅威
日本最後の新種発見
ヤンバルクイナは飛べないか
飛べないクイナの絶滅,減少の歴史
分布と個体数の減少
マングースの駆除とその他の減少原因
個体数回復,残る課題
絶滅回避のための保護増殖と野外復帰試験

22 ヤンバルクイナの明日をつくる (中谷裕美子・長嶺 隆)
(コラム)ヤンバルクイナはかしこい?
なぜ飼育下繁殖が必要となったか
飼育下繁殖の重要性とその目標
動物園との連携
ヤンバルクイナの飼育の特異性
難関,ヤンバルクイナの人工孵化
ヤンバルクイナの人工育雛
飼育下における自然繁殖
おわりに

  引用文献
  あとがき
  事項索引
  和名索引
  学名索引

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