アフリカ昆虫学

新刊案内

田付貞洋(日本ICIPE協会会長,東京大学名誉教授)・
佐藤宏明 (奈良女子大学理学部化学生物環境学科准教授)・
足達太郎(日本ICIPE協会事務局長,東京農業大学国際食料情報学部国際農業開発学科教授)共編 
A5判・並製本・336頁
定価(本体3,000円+税)
ISBN 978-4-905930-65-5 C3045
発行 2019年3月25日

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アフリカの昆虫と生活

 アフリカが人類発祥の地であることとどのように関連するかはさておき,昆虫の世界でも数々のユニークな存在があることは周知のとおりである。私の中学生時代,雑誌の写真であったか,衝撃を受けたのはアフリカの2種のオオアゲハ,アンティマクスとザルモキシスの姿だった。2種は互いにまったく違う形と色彩をもちながら,いずれもアジアからオセアニア,南米のアゲハチョウによく見られる形と色彩からはかけ離れた独自の翅形と美しくもくすんだ色合いが,まさにミステリアスなアフリカを表していると思った。いまもこれら2種の生態はよくわかっていないらしい。その他枚挙に暇がないが,本書に登場するものをいくつか挙げれば,からからに干からびたまま何年も生存するネムリユスリカ,今世紀になって生きたものが発見されて有名になった生きた化石,カカトアルキ,巨大な大顎をもつ狩りバチなどもアフリカでしか見ることができない珍奇な昆虫であろう。

本書は4部構成である。
 第1部「アフリカ昆虫学とは」は3章からなり,アフリカ昆虫学を概説している。1章では生物多様性の観点,2章ではエスノサイエンスとのかかわり,3章では歴史的な観点から,それぞれアフリカ昆虫学の意義が述べられており,三つの章を通読していただけばこの本の概要を把握できるだろう。
 第2部は「アフリカで昆虫に出合う」で4章から9章までの六つの章からなり,いずれも前著の「招待」にはなかった新たな視点,新たに登場する昆虫が扱われ,大半が新たな執筆者によっている。4章と5章では本書の副題にも入っている「エスノサイエンス」の視点を重視したフィールドワークが紹介される。6章から9章では,章ごとに特定の種あるいはグループに焦点を当てて,興味深い形態や生態が紹介されるとともに,系統や起源の考察も試みられる。読者には新たな出合いを楽しんでいただけるのではないか。
 第3部「アフリカ昆虫学の展開」も10章から15章までの六つの章からなるが,主として前著の「招待」に登場した研究のその後の展開が扱われている。したがって執筆者も大半が前著でも執筆された方々によっており,長年月をかけた成熟した研究に触れることができるだろう。とくに「招待」の読者にはインパクトを与えられた研究のその後は気になるところと思う。
 第4部は「アフリカの昆虫学研究機関」で,16章から最終の20章までの五つの章ごとに一つ,計五つの研究機関が紹介されている。そのうちの三つ,ICIPE (16章),国際熱帯農業研究所 (IITA ; 17章),ケニア国立博物館 (NMK ; 20章) は前著でも扱われていたが,長崎大学熱帯医学研究所ケニアプロジェクト拠点 (18章) とモーリタニア国立バッタ防除センター (19章) は新たな紹介となる。それぞれ歴史,規模,性格,目的が異なるが,いずれもアフリカでは数少ない昆虫学の研究拠点として機能する重要な機関である。

 かつての「暗黒大陸」は欧米諸国による長い植民地支配,そして第二次大戦後の各国の独立を経て,今や開発と工業の発展で繁栄を謳歌しているようにも見える。しかし,いっぽうで過去の歴史と現在の世界 (とくに先進国) が抱える矛盾とがアフリカの人々と自然に対して随所で大きな負の影響を与えている現実がある。これらは「紛争」と「環境破壊」に要約できるだろう。困難ではあるが,これらの改善なくしてはアフリカのユニークな昆虫の研究もおぼつかない。私たちには「アフリカ病」の熱の一部でも「改善」に向けることが大切だと思う。(「まえがき」より)

目 次

地図(アフリカの国と地域 
   本書に登場するアフリカの地名,行政区名)(佐藤宏明)
まえがき(田付貞洋)

第1部 アフリカ昆虫学とは
1章 生物多様性の観点から見たアフリカ昆虫学の重要性(佐藤宏明)
  1. アフリカの昆虫の多様性が研究される理由
  2. 本章の構成
  3. アフリカの地史・気候・生物相
  4. タマオシコガネ亜科の系統地理とアフリカ熱帯区での多様性
  5. アフリカにおける分類学的研究の現状―チョウ目ホソガ科の場合
  6. アフリカ昆虫学の発展のために

2章 アフリカ昆虫学とエスノサイエンス(藤岡悠一郎)
  1. アフリカに暮らす人々と昆虫
  2. エスノサイエンス
  3. 昆虫と人々との関係に関する研究とエスノサイエンス
  4. アフリカ昆虫学へのエスノサイエンス・アプローチ
  5. アフリカ昆虫学の未来に向けて

3章 アフリカ昆虫学の歴史と展望(足達太郎)
  1. アフリカ昆虫学とは
  2. アフリカ昆虫学の範囲と系譜
  3. アフリカ昆虫学史
  4. アフリカ昆虫学への日本の貢献
  5. アフリカ昆虫学の展望
   

第2部 アフリカで昆虫に出合う
4章 ナミビア農牧社会における昆虫食をめぐるエスノサイエンス(藤岡悠一郎)
  1. フィールドに入るまで
  2. オバンボの自然資源利用と環境認識
  3. 昆虫利用の変化
  4. まとめと将来展望

5章 農業と昆虫をめぐるフィールドワークとエスノサイエンス(足達太郎)
  1. 初めてのエスノサイエンス体験
  2. 中国での農村調査
  3. アフリカの農業と昆虫をめぐるフィールドワークとエスノサイエンス
  4. アフリカ昆虫学におけるエスノサイエンスの意義

6章 日本とアフリカのヤマトシジミ(岩田大生)
  1. ヤマトシジミの斑紋変異
  2. ケニアでの調査
  3. ケニアのアフリカヤマトシジミ

7章 巨大な大あごをもつ狩りバチが飛ぶカメルーンの森(坂本洋典)
  1. 特異な狩りバチSynagrisとカメルーンへの旅
  2. ついに見た,Synagrisの生きる姿
  3. カメルーンのさまざまな昆虫たち
  4. カメルーンの人々の暮らし

8章 カカトアルキの発見と分類(東城幸治)
  1. カカトアルキの発見
  2. 南アフリカでの調査
  3. 系統と分類
  4. 今後の展望

9章 アリモドキゾウムシを追ってアフリカへ(立田晴記)
  1. アリモドキゾウムシとアフリカとの関係
  2. いざマダガスカルへ
  3. アリモドキゾウムシ研究の意義とアフリカの魅力

第3部 アフリカ昆虫学の展開
10章 ネムリユスリカの驚異的な乾燥耐性とその利用(奥田 隆)
  1. 干からびても死なないネムリユスリカ
  2. ネムリユスリカの乾燥耐性機構
  3. 新種ネムリユスリカの発見
  4. マンダラネムリユスリカの保護活動
  5. ネムリユスリカの宇宙環境暴露実験
  6. 乾燥保存可能な昆虫培養細胞の構築
  7. アフリカ昆虫学の魅力

11章 マダニ寄生バチの生態(高須啓志)
  1. マダニの寄生バチ
  2. 国際昆虫生理生態学センターにおけるマダニ寄生バチの研究
  3. マダニに対するハチの産卵行動
  4. ハチによる寄主の認識
  5. マダニ体内での寄生バチの発育
  6. 成虫の寿命と生涯産卵数
  7. 野外における寄生調査
  8. 野外におけるマダニトビコバチの生活史

12章 混作と農業害虫―トウモロコシの害虫ズイムシを例として―(小路晋作)
  1. サブサハラアフリカの穀物生産と害虫の問題
  2. 生息場所管理技術としての混作
  3. 混作が害虫,天敵および作物収量に及ぼす効果
  4. プッシュ・プル法
  5. 植物を介した混作の直接的作用に関わる要因
  6. 天敵を介した混作の間接的作用に関わる要因
  7. 混作によるズイムシ防除の発展に向けて

13章 貯穀害虫の生態と管理(相内大吾)
  1. アフリカにおける貯穀害虫とその被害
  2. 貯穀害虫の生態
  3. 貯穀害虫の防除とトウモロコシの生産性向上
  4. アフリカにおける貯穀害虫防除の展望

14章 ヒトマラリア原虫を媒介するハマダラカの生態と蚊帳を使った対策(皆川 昇)
  1. アフリカのマラリアとハマダラカ
  2. 蚊帳によるマラリア対策
  3. 今後の課題と展望

15章 ネッタイシマカの生態と進化(二見恭子)
  1. イエローフィーバーモスキート
  2. タイヤをめぐる冒険―ケニアでの調査
  3. ネッタイシマカの基礎知識
  4. 世界を旅するネッタイシマカ
  5. アフリカのデング熱とネッタイシマカ集団
  6. ネッタイシマカに亜種はあるのか

第4部 アフリカの昆虫学研究機関
16章 国際昆虫生理生態学センター(サンデー・エケシ)
  1. はじめに
  2. 主要研究課題
  3. 実施プロジェクト
  4. 人材育成と制度開発 (CB&ID) プログラム
  5. おわりに

17章 国際熱帯農業研究所(マヌエレ・タモ)
  1. IITAの設立と昆虫学部門
  2. キャッサバ害虫の生物的防除
  3. SP-IPM
  4. 生物多様性標本の収集
  5. 生物的リスクの管理

18章 長崎大学熱帯医学研究所ケニアプロジェクト拠点(二見恭子)
  1. ケニアリサーチステーション
  2. ケニア拠点の設立と活動
  3. フィールド研究拠点と現地での研究
  4. ケニア拠点が目指すもの

19章 モーリタニア国立バッタ防除センター(前野ウルド浩太郎)
  1. サバクトビバッタとは
  2. 国際的な対策
  3. 現地での対策

20章 ケニア国立博物館(足達太郎) 
  1. NMKの沿革
  2. リーキー家の人々
  3. NMKの研究部門
  4. NMKにおける昆虫学研究
  5. 生物多様性条約への対応

補章 アフリカで虫を食べる―栄養源としての昆虫食(八木繁実・岸田袈裟)

引用文献
あとがきにかえて―八木繁実さんのこと(足達太郎・佐藤宏明)
生物分類表(佐藤宏明)
事項索引(佐藤宏明)
生物名索引(佐藤宏明)

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