予備校講師の 野生生物を巡る旅 II

新刊案内

汐津美文(河合塾 生物科 講師 理学博士)著 
B6判・並製本・168頁・フルカラー
定価(本体1,800円+税)
ISBN 978-4-905930-09-9 C3045
発行 2020年10月10日

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動物たちが暮らす環境と
同じ光や風や匂いを感じたい

 『予備校講師の野生生物を巡る旅』を上梓してから4年が過ぎました。友人たちには「もう行きたいところは行き尽くしたのでは」と言われたこともありますが,それは全く逆でした。まだ会ったこともない野生生物に会いたいという気持ちはますます高まり,訪れたいと思う地域は増える一方でした。定年を迎えて仕事の量が少なくなったのをいいことに,年1回ほどの旅が2回,3回と増えていきました。
 前著では,マダガスカルから始まって,東アフリカ,インド,ボルネオとインド洋の周囲を時計回りに旅しながら,そこに棲む野生生物を紹介しました。今回の旅で訪れるのは,ウォーレシア,オーストラリア,ガラパゴス諸島,コスタリカ,北アメリカ。つまり太平洋の周囲をちょうど反時計回りに旅します。私自身が撮った写真を使って,旅で出会った珍しい生きものや動物の興味深い行動を紹介したいと思います。
 ウォーレシアとは,インドネシアの東部に位置し,ボルネオ島とニューギニア島の間にある島々を指します。その中心にあるスラウェシ島には奇妙な牙をもつイノシシ,バビルサが棲み,コモド島には世界最大のコモドオオトカゲが棲んでいます。これらの島へは日本からの直行便がなく訪れるのは大変でしたが,その出会いに感動しました。ウォーレシアの名の由来となったウォーレスの記念碑が,スラウェシ島のタンココ自然保護区に建立されているのを見つけたことも,旅の思い出になりました。
 オーストラリアは一口で言ってしまえば「有袋類の大陸」です。大陸の内部には広大な砂漠や草原が広がっていますが,北部の熱帯ユーカリ林では無数のアリ塚が奇妙な景観をつくり出しています。東部の海岸地域は太古からの熱帯雨林に覆われ,タスマニア島には冷温帯雨林が形成されています。オーストラリアの旅では,それぞれの生態系に適応した多くの有袋類を見ることができました。卵を産む哺乳類であるカモノハシとハリモグラに出会えたのも大きな収穫でした。
 ガラパゴス諸島はダーウインが進化論の着想を得た島であることは,誰もが知っています。荒涼とした溶岩台地,サボテンの林,緑が茂る高地,紺碧の海。動物たちは全く人を恐れないため,ごく間近で見ることができます。観光客は1週間ほどのツアーに参加してクルーズ船で島々を巡り,ガイドの管理のもとで出会った生物の説明を受けます。生態系への影響に配慮しながら,観光収入によって持続的に自然を維持しようとする先進的なエコツーリズムの考え方がそこにあります。ガラパゴス諸島では,他の場所では見られない自然と個性あふれる動物たちが出迎えてくれました。
 コスタリカはエコツーリズム発祥の国として有名です。国立公園と自然保護区の総面積が国土の4分の1を占め,私設の保護区も数多くあります。カリブ海と太平洋の両海岸の熱帯雨林や中央山岳地帯の雲霧林では,「火の鳥」のモデルと言われるケツァールをはじめ色鮮やかな鳥たちに出会うことができました。森の中で目的の動物を見つけるのは大変難しいのですが,野生動物の生態を知り尽くしたガイドは簡単に見つけ出してくれました。赤い小さなカエル,白いぬいぐるみのようなコウモリなど,ずっと会いたいと思っていた動物に出会えた旅は,忘れられないものになりました。
 イエローストーン国立公園を訪れた目的は二つありました。北アメリカの大草原のシンボル的存在であるアメリカバイソンの大集団を見ることと,生態系の頂点に立つハイイロオオカミの群れに会うことです。公園を訪れた夏はちょうどバイソンの繁殖期にあたり,雌雄が合流して大集団が形成されていました。しかし,残念ながら二つ目の目的は達せられませんでした。オオカミに会うためには,積もった雪の上に足跡が残る冬のほうがいいようです。機会があれば季節を変えて,また訪れたいと思っています。
 相変わらずスキューバーダイビングを続けています。フィリピンのブスアンガ島では絶滅が危惧されているジュゴン,インドネシアのレンベ海峡ではココナッツの殻で身を守るメジロダコや口内で仔魚を育てるテンジクダイなどに会いました。サンゴ礁の魚には親と子で形態が全く違うものが数多くいます。子から親へどのように変化していくのか,変化していく様子を調べ始め,ダイビングの楽しみがもう一つ増えました。
 野生動物に会いに行く旅は大変楽しいものです。旅から帰って出会った動物について詳しく調べる作業もまた楽しいものですが,いつも気がかりなことがあります。それは,それぞれの動物が置かれている厳しい状況です。今回の旅で取り上げた動物については,出来る限りIUCN(国際自然保護連合)による「レッドリスト」の内容を記しました。しかし,このリストだけで一喜一憂することなく,私たちに何ができるかを考えることが大切だと思います。愛すべき動物たちが絶滅してしまうことほど寂しいことはありません。終章では,私たちヒトと野生動物の関係を,ヒトに最も近い類人猿であるチンパンジーとゴリラが置かれている状況と照らし合わせて考えてみたいと思います。(「はじめに」より)

目 次

第1章 ウォーレシア
  1 クロザル —自撮りしたサル
  2 スラウェシメガネザル —夜行性と眼の関係
  3 クロクスクス —東からの進入者
  4 バビルサの棲む森へ
  5 コモドオオトカゲ —単為生殖する世界最大のトカゲ
  6 カンムリシロムク —野生復帰を目指して
  コラム ① タンココ自然保護区のウォーレス像
第2章 オーストラリア
  7 有袋類の華麗なる適応放散
  8 カンガルー —跳躍移動の達人
  9 タスマニアデビル —最大の肉食性有袋類
  10 カモノハシ —卵を産む哺乳類
  11 セイドウシロアリ —巨大な塔の中の王国
  12 カーテンフィグツリー —絞め殺し植物
  コラム ② ハメリンプールのストロマトライト
第3章 ガラパゴス諸島
  13 リクイグアナとウミイグアナ
  14 ガラパゴスコバネウ —飛ばなくなった鳥
  15 カツオドリの棲み分け
  16 サボテン類 —乾燥地への適応
  コラム ③ 進化論の島
第4章 コスタリカ
  17 ケツァール —構造色の輝き
  18 森の宝石,ハチドリ
  19 オオハシ —大きなくちばしは何のため
  20 新世界ザルの色覚
  21 2種の白いコウモリ
  22 ワニ —最強の顎をもつ動物
  23 熱帯雨林のカエルたち
  24 ハキリアリ —農業を営むアリ
 コラム ④ ヘビに擬態したイモムシ
 コラム ⑤ モンテベルデでスカイトレック
第5章 北アメリカ
  25 アメリカバイソン —大草原のシンボル
  26 シカと捕食者の二つの物語
  27 プロングホーン —世界で2番目に足が速い動物
  28 ロッジポールパイン —森林の更新
 コラム ⑥ 七色に輝くグランド・プリズマティック・スプリング
第6章 海の生きものたち
  29 ジュゴン —浅く暖かい海で生きる
  30 ココナッツオクトパス —「道具」を使うタコ
  31 似ていない親子
  32 フグに擬態するカワハギ
  33 バンカイ・カーディナルフィッシュ —口内保育する魚
  34 サメ,その多様な繁殖様式
 コラム ⑦ カンガルー島でアシカと泳ぐ
終章 アフリカの森で種の絶滅を考える
  35 チンパンジーとゴリラ

参考文献
おわりに
事項索引
生物名索引

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